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みっつのいのり


少女は白亜の城の、少年は鄙の家(や)の、その窓辺に跪き。
同じ朝を同じ想いで迎える——


幼く、迷い子になって涙を零していた子供はまた僅かなうちに成長を遂げていた。
彼にとってそれは喜ばしいことであると同時に、いつか子供が大人となり独り立ちする、その別れの日が近づくことでもあった。
王国でも指折りの騎士たちに囲まれ、慎ましき聖人、思慮深き賢人の言葉に耳を傾け、日一日と強く賢くなっていく。
やがては騎士となり、そして——この家を出て妻を娶り、何れ子を抱いて再び訪ねて来るのだろうか——

名を呼ばれ、彼は子供へと向き直った。
他の子に比べて身体は細くとも顔立ちは大人びて見えるところがあるが、今はぷぅ、と頬を膨らませて拗ねたような顔をしている。
これはまずい、と彼は思った。
何度も名を呼ばれていたのに返事もせずに思考の海に沈んでいた事を咎め立てする表情だった。
大きな手を伸ばして髪を撫で、すまん、と言おうとしたがその手を振り払われる。
ますますもってまずい。
このところ、本当に機嫌を損ねた時はそうやって子ども扱いすることを嫌がるようになってきていた。
ほんの少し拗ねているだけなら、こうやって髪を撫でてやればすぐに許してくれるのである。
今年は聖コーネリウス降誕祭の贈り物に何をやろうか考えていた、と言えば漸くと、子供は納得してくれたようだった。


今年も、彼が率いるコーネリア王国騎士団の団員たちは、子供が楽しい祝祭の日を迎えられるようにと当日の勤務を引き受けてくれていた。
仕事が詰まってしまうが、それは仕方が無い。
子供が銀色の星飾りをつけたピンを『24』の数字の上へ刺したその日も、やはり勤務に就かなければならなかった。
彼は子供を前に抱えて黒馬を駆り、王城へと向かう。
この日、彼に課せられていたのはコーネリアの姫、セーラの護衛である。
この一年でまた一層美しさを増した少女は、国王同様、民たちから慕われる存在。
滅多に表へ出されることさえない彼女も、この祝祭の間に数回、国民の前へ姿を見せる。
しかし、一目その姿を見ようと詰め掛ける人々の中には、稀に酔いや興奮で行列に割って入るような輩も混ざっていた。

姫がそうしてパレードに列する時には国王一人の時に比べて概ね倍の人数を出して王室の警護にあたる。
彼は美しい姫の護衛をするのならば、相応に見目麗しい騎士をと思い、一隊を任せ片腕とも呼べる男をその仕事に任じていた。
しかし、国王は特に信頼厚い騎士である彼に姫を護れ、と特に命じた。
それは虫の知らせ…とでもいうべきものだったのだろうか——

パレードの終わり、王城前広場でそれは起こった。
広場で仕事をあがるから、待ち合わせをしようと言われて待っていた子供の目の前での出来事だった。
突如けたたましい音が、聖歌や楽団の音楽をかき消す——花火だった。
初めは誰もが子どもの悪戯か、と思ったがそうではなかった。
間近での火薬の音とにおいに怯えて、姫の馬車を引く馬たちは混乱に陥る。
大きく進路を外し、轢かれそうになった人々が逃げ惑う中から、一人の男が躍り出た。
手にはナイフを鈍く光らせ、真っ直ぐに姫の乗る馬車へと駆け寄って行く。
この危地の、最も傍に居て、かつ、未だ自由に騎乗できていたのは彼一人であった。
当然のこと、考えるより先に彼は愛馬の腹を蹴って駆け寄り、男と馬車との間に割って入ろうとする。
だが、逃げ場なく駆け回る人々を馬で踏み越えていくこともできない。
騎手を失っても、よく調練された黒馬は混乱にも臆することはない——そう信じ、彼は迷うことなく鞍から跳躍するようにして下馬した。
剣の鞘を払うことはない。
人々が密集した中で大剣を抜けば却って身動きがとれなくなる。
殆ど馬車の扉に手をかけようとしていた男の右腕を掴み、引き剥がした。
目的を諦めた男は逃走を試み、彼の腕を振り払おうとする。
この人ごみの中で大振りなそのナイフを振るわれ、当てずっぽうに投げられでもしたら——彼の脳裏に浮かんだのは、この広場でパレードが終わるのを一人待っている子供の姿。
瞬間、その内心が手の力を弱めでもしたのかもしれない。
彼の左腕に熱が走った。
すぐ近くの馬車から聞こえる姫の悲鳴がやけに遠い。
もう一本、隠し持っていたナイフで切りつけられていた。
浅手ではないな、と思いながらも彼は大きく隙のできた男の腹部に容赦なく膝を入れた。
男は悲鳴を上げて、崩れる。
その手には既にナイフは無く、両の手甲に紡錘形をした変わった刃物が突き刺さっていた。
一番隊を率いている男の得意とする投擲武器である。
平服ではあったが団長、と駆け寄ってきた。
二人で男を取り押さえ、漸く身動きが取れるようになった近衛兵たちへ引き渡す。
身を呈して姫を護った英雄に、逃げ惑っていた人々は王国騎士団万歳、と喝采を送った。
傷の痛みを堪えてそれに応えていたが、突如ぴたりと歓声が止み、視線が一点に集中する——彼は民衆の目が向く先へと振り返った——馬車の扉が開き、セーラ姫がそこに立っていたのである。
その、秩序の女神の降臨とまで称賛される美しさに、水を打ったようになった。
民衆の沈黙を破ったのは、彼。
危のうございます、と止めたが姫は御者の出したステップを降りて来る。
急ぎ彼はその御前へ跪こうとしたが、彼女は手の仕草でそれを制し。
膝を軽く折り、臣下である彼へと礼をして見せ、更には自らレースのハンカチで彼の傷を結んだ。
わぁっ、と再び人々は沸き立つ。
そして馬車道を開け、再び車へ戻ったセーラが王城の大門を潜り抜けて行くのを見送ったのである。

大変だったのはそれからだった。
約束をしていた、聖コーネリウス像へと向かうと子供は怒ったような、泣きそうな、なんとも複雑な表情をして待っていた。
口をきゅ、と結んで最初は口を利こうともしない。
名を呼んで肩に触れれば、それが小刻みに震えている——泣きそうなのを我慢しているのだと、彼にはすぐに解った。
自分が大怪我を負った時でも泣いたりはしない癖に、自分の保護者が傷を負えば目に涙をいっぱいに溜めて黙り込む。
いつものことではあるが、この日は更に酷かった。
懸命に話しかけて宥め、マルクトを見に行こうと言っても返事ひとつしようとしない。
ぽつりと、もう帰ろう、と言うばかりだった。
どれほど大丈夫だから祝祭を楽しもう、何か好きなものを買ってやろう、と伝えても子供は帰ろう、としか言わない。
やがて彼は宥めることを諦めて、無事な片腕で手綱を取り、帰路についたのだった。

家へ辿り着くと、火を入れるのも食事を作るのも、全て一人でやると子供は言い張り、彼はベッドに押し込められてしまった。
まだ幼い子供にこれほどの心配をかけていることが心苦しく、同時にかいがいしく尽くしてくれる健気な姿が愛おしい。

——この冬、彼は子供と初めて『関係』を持った。
決して赦されざることと頭では理解している。
人として、そして騎士として、身を慎み、何より自分の保護を必要としている子供を正しく導いてやらねばならない。
だが、まだ無垢な、『行為』の意味も解らない子供との罪に塗れた交わりは、そうした理性を簡単に押し流すほどの悦楽を彼にもたらすのだった。
熱も冷めないうちに眠りに落ち、乾いて固まる精に汚れた子供を抱いて目を覚ます度に罪の意識に苛まされる。
そしてもう終わりにしようと誓うが、無邪気に誘う子供を気が付けばまた、思う様貪っていた。
そして、この聖なる祝祭の夜でさえ——

怪我で湯浴みが出来ないからと、身体を拭いてくれていた子供の、少し大人より高い体温をすぐ傍で感じればドクン、と胸が高鳴る。
堪えかけた心は、祝祭の贈り物などいらない、『  』が居てくれたらいい。そう言われ、澄み切った氷の色の瞳で真っ直ぐに見つめられ——呆気なく折れた。
片腕で易々と引き寄せれば、怪我をしているのに、と子供が抗う。
だが、却って情欲が燃え盛っていくばかり。
傷の痛みも忘れて左腕も子供へと伸ばした。そうして服の裾から直に肌に触れ始めると、傷を気遣い、今日は駄目だと繰り返す声も甘く蕩けた。
自分の傷から漂う微かな鉄錆の匂いが鼻腔を擽れば、少し前、初めて子供の身体を開いた夜が思い出されて彼を更に狂わせる。
片手の内に幼い性器を収めてあやし、まだ薄い蜜を弾けさせた。
彼を押し留める声を上げていた唇は紅く染まり薄く開いて、早い呼吸を繰り返す。
大丈夫かとその顔を覗き込むと、子供は自分から彼の首に腕を回して唇を重ねた。じゃれ付いてくる小動物のような口付けは次第に水音を伴ない、家族の親愛という一線を越える——理性は疾うに麻痺していた。
昂ぶったモノを、先程達したばかりで敏感になっている子供のそれとを夢中になって擦り合わせる。
やがて白濁が互いの下腹部に溢れた。
指でそれを掬い取り、子供の後ろへと伸ばす。
つつくように触れればそこは指に怯えたのか——誘いこもうというのか、ひくん、と蠢いた。
硬く、内から濡れることのない蕾にどちらのものか解らない精を塗りつけ、ぬるり、と小指を埋める。
子供が息を詰めるのが解った。
再び小さなモノへ手を伸ばし、竦む身体を宥めながら指を動かす。
中を混ぜ、先を曲げ、引き抜いてはまた埋める。
小指に慣れてくれば人差し指に変え、次は中指を添えて。子供に無理をさせてはならない、という一片の正気は残っていたが、はやく、とせがまれて息を飲んだ。
普通の子らが親にお菓子や玩具をねだる様な、甘い、けれども無邪気な声だった。
彼は、急いてはいけないと自らに言い聞かせながら、指を抜き、まだ小さな身体への負担を減らそうと、身体を入れ替えて自分の上へ座らせる。細い腰を掴んで浮かせ、下から先端を慣らした入り口へと宛がうとじわり、じわりと子供の腰を落とさせていく。
だが、子供は腰を支える彼の大きな手を振り切って、自分から腰を落とした。
狭すぎる入り口だが、初めての夜以来あまり時を空けずに幾度も開かれているそこが切れることはない。
彼の手から与えられる前への刺激にきつすぎる締め付けが少しばかり緩めば、子供は自ら腰を浮かせて再び落す。
初めてされる行為でありながらどうすればいいのか解っているのは本能なのか、それとも子供の失われた記憶の中、かつて誰かに同じことをされたからか——彼は後者を思い浮かべ、嫉妬の心が自分を焼き尽くしていくのを感じた。
自分の上で腰を揺らめかせ、嬌声を上げて達する子供の中へ下から突き上げ、溢れるほどの精を放っても、昏く燈った炎は火勢を増して治まろうとしない。
聊か乱暴に自分の上に乗る子供の腕を引いて胸へ抱き、反転させて組み敷く。
もう無理、と息も絶え絶えに言う子供を再び貫けば、高い悲鳴が上がった。
それでも自制できずに激しく腰を使う。
子供は仔犬めいた声を上げて、狭くきつく、けれども柔らかな内壁で彼自身を包み、熱を伝えた。
繋がった箇所からは受け止めきれないものが溢れて滴り落ちる——

——彼が我に返った時、子供は意識を失っていた。
消えかけた鬱血の上へ新たな紅い痕がつき、朝、綺麗に梳いてやった銀の髪は縺れ、身長の割に長い手足はぐったりとシーツの上に投げ出されている。
また罪を重ねてしまった、と彼は手で顔を覆った。
コーネリアの多くの人が、そして彼もまた信仰する神の教義では、禁忌とされる行為である。
譬えそうでなくとも、子供が女であったとしても、新雪を泥靴で踏み躙るような行為が赦されようか。

あまりにも重い責は自分ひとりで背負う。
どうか子供の、軽やかに未来へと羽ばたく翼にそれを乗せたもうことなかれと。
己の愚かで身勝手な罪の痕を拭ってやりながら、彼は祈る。
全てが無かったように、生々しく交わりの痕跡を残す身体を夜着で覆う時、彼の口から零れた謝罪の言葉は呻き声のようだった。
夜半を過ぎて尚、夜明けには遠い冬の夜、次第に熱を失って冷えていく子を擁いて眠ることさえ憚られる。
眠りを取らないことが自らに課した罪であるかのように、気だるく落ちそうになる瞼を開いて彼は寝息を立てる子供を見つめていた。
そうするうちに、あれほどに子供のため祈っておきながら、誰にも奪われたくはない、この先もずっとこの腕の中へ閉じ込めたいと願っている自分に気付き、首を振る…どれほど罪深いのだろうかと。
祝祭の飾りを施した小さな鄙の家は、懺悔室にも等しく。
夜は長く、重く——


やがて子供は、窓から差し込む朝の光と隙間から差し込む寒さに目を覚ます。
いつもなら自分を抱えて眠ってくれる男が、枕元に突っ伏して眠っているのを見て、普段感情を宿さぬ瞳を曇らせた。
そっと起き出して、彼の身体を自分の被っていた毛布で覆う。
そうして小さな胸を痛ませる。
今年も聖人は祝祭の夜明け、『一番欲しいもの』を自分の傍に置いてくれたが、来年はどうだろうか、再来年は、その次は?…昨日見た、心優しく国民の誰からも愛され、その上非の打ち所なく美しい姫と、彼女に傅く『騎士』の姿が頭を過ぎる。
今は年少で、故に彼は傍に居てくれる、けれどもこのまま子どもではいられない。
それでも——何ひとつ、記憶さえ持たない自分にたったひとつ与えられた『彼』の傍に、どうかいつまでもいられますように、と。
その小さな手を組んで光射す窓辺に膝をついた。


そして夢の都コーネリアの中心、大理石の城。玻璃の部屋にびろうどのカーテン、遠く砂漠の国から運ばれたタペストリー。
覗き込む窓の縁には、この部屋の主が本でしか見たことのない海から届いた貝の装飾。
身に触れるものは上等の絹ばかり、その髪や華奢な手足を飾るのは希少な金属と石。
運ばれてくる朝の食事は、祝祭の祝いにと用意された、子供が目にしたこともないようなもの。
聖者から、と召使たちが捧げるのは繻子のドレスに宝石。
けれども賢い少女…セーラ姫は知っている。
それらが全て、父王や近隣の小国からの贈り物なのだと。
何もかもが眠っている間にさえも与えられる。
ただひとつのものを除いて。
『危のうございます』——力強いその声、礼服に身を包んだ姿、己のために流された血——全てに恵まれた自分が尚、願うことは強欲であろうかと。それは罪であろうかと。
それでも少女は窓辺に跪き、頬を薄紅に染めて、可憐な指を膝に組んだ。


かたちは違えど一様に切なる三つの願い、そのうちのどれが叶うのか、どれも叶わないのか——秩序の女神と混沌の神とが、それらを載せた天秤を揺らす手を伸ばしていることも知らず——静かに祈りの歌は流れる。


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