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序文
「傍観者」

 
 『私』は肉体を失い只彷徨う意識でした
 何と契約したのか何を対価として支払ったのか、もう覚えて居ませんが
 ものを、時代を、流れを、見る目だけはあります
 時を浮遊し 革命を見て ただ時代の流れを考えるそれだけの存在です
 浮遊し漂う意識ですが、とても話したい物語が有ります
 貴方に声を届ける事が出来ない私はここに文字を残しましょう

 忘れもしません雪がしんしんと降り積もる師走も半ばを過ぎた辺でした
 『私』は突然何か強い意志に引かれる様にこの国に参りました
 『私』はこれからこの国で起こった小さな物語を語ろうと思います
 『私』はこの物語の傍観者であり物語にの中に関わっては居りません
 ただ哀しい出来事だったので誰かにこの胸を伝えたかったのです
 子守唄程度にお付き合い頂ければ幸いです



レポート:1

 この国は世界の繁栄の中心となり、城を構え、王を置き秩序を定め
 気高く美しく栄えて居りました
 国は賢人の王の導きのもと城を囲い城下町が栄え城下を基準に集落が連なり
 それはそれは大きな都市となりました
 国の繁栄と共に人々の繁栄、城下は活気に溢れ商いが行き交い
 貴族 平民 貧民と住まい、巨大な王国と成りました
 近隣の小さな都市と貿易を交え、行き交う人々の流れは激しく
 宣教する牧師や黒い心の人間もまたこの国に入り込んで来ました
 そこで王は国を守る為に人を集め兵を作り精鋭な王国騎士団を揃えました
 国の秩序は騎士団達に委ねられ、王は絶対的な法を作り悪を裁き平穏を持続させて行きました

 それは『私』も感服する程の気高き美しき王国 コー**ア
 聖歌に詠われる輝やかしく栄える王国都です

 秩序を司る王国騎士団の中には一際目に付く存在がありました
 巨漢で飛び抜けて武芸を操る強き男
 若くして仲間の信頼も厚く、温和であったこの男に王は騎士団長の称号を与えます
 『彼』は仲間と王と国に誓い、この日騎士団長の印を胸に掲げました
 そして『彼』の率いる王国騎士団は強く誇り高く、国の象徴ともなりました



レポート:2

 賢人の王のもと王都は平穏に豊かに栄えて行きました
 しかし平穏とあっても貧困や平民貴族の生活の差は目に見えて出て居りました
 貴族の優雅で豊かな暮らしもあれば日々飢えに死んで行く貧困の暮らしもあります
 しかしこの問題は王にとっても悩みの種であり、解決策の無いまま時は流れて居りました

 この日、王国騎士団長を勤める『彼』が市場に食料を買いに出て居りました
 久し振りの休暇の一時であった『彼』に、調子の良い店の主人が
 買った食料に粗品を付け励まし
 婦人や子供等が『彼』を優しく囲い『彼』を慕い集りお喋りをする
 それはとても和やかな光景でした

 『彼』という存在は国の正に正義の中心であり
 誰もが慕い、頼り、愛し、守られていたのです

 その日『彼』が帰路を歩いていると路地の隙間から弱く倒れる小さな子供の姿がありました
 良心でしょう身体は無意識に反応し慌ててその子の側に駆け寄り抱きかかえました
 そして『彼』は目を疑う様な哀しい光景を目にするのです
 その『子供』の身体は細く、破れた衣服から幾度かの虐待の痣と
 性的な暴行を受けたであろう傷が生々しく残って居りました
 虚ろな表情は時折目を閉じ呼吸も定まらない状態でした
 『彼』は急ぎ顔馴染みの医師の所へ『子供』を抱え駆け込みました
 『子供』は極端な栄養失調を起こし意識が朦朧として居た様です
 ひとつの命が助かった事に『彼』は胸を撫で下ろし
 この『子供』が目覚める迄医者に通い続けました

 数日の看護の元正常に目が覚めた『子供』は医師や看護婦人、大人達に恐怖の眼差しを向けます
 怖かったのでしょう部屋の隅に踞り中々人前に出ては来ませんでした
 ところが温和な優しき『彼』騎士団長の姿に安堵したのか
 『彼』には近寄り、懐く姿が有りました

 『子供』は目に付く程顔かたちの良い子でしたが
 うっすらと笑みを浮かべる事はあってもまるで笑顔を持たない可哀想な子でした
 『彼』はこの子を何とか救ってあげたいと、身寄りの無いこの子を引き取る事を決意します
 名前すら持っていなかった『子供』に『彼』は『■■』と誇り高き神の名前を送りました



レポート:3

 王国騎士団の勤めが終わると『彼』は城の召使いや婦人に預けていた『子供』を引き取りに走ります
 そして二人で家に帰り、二人で夕飯を作り、二人で風呂に、二人で床を作り眠り
 二人で勤めに出て、二人でまた家に帰ります

 独りで生活していた『彼』には『子供』との時間は楽しく
 王国騎士団の仲間達から日々からかわれる程この『子供』を大切に、大切にするのです

 『子供』もまた『彼』を慕い、『彼』を見習い成長して行きます
 『彼』もまだ若く、父と子と言う絆は時間をかけても難しいと考えた『彼』は
 『子供』を自分の良き相棒(パートナー)として目下に置かず常に平等であると聞かせました
 『子供』はとても賢い子で『彼』のその言葉を理解し嬉しさを感じていた様です

 夜、床に入ると『彼』は大事に『子供』腕に抱え眠りに着きます
 『子供』は腕の中で彼の様な騎士に成りたいと言いました
 『彼』は夜も眠れぬ程その言葉を喜びました

 それから子供は『彼』の勤めが終わる迄、城の中の賢人に学び、騎士達に混ざり武芸を覚えます
 王もまたその姿を見て、時期成長した『子供』を王国騎士団に入れる様薦めました



レポート:4

 それは突然の雨でした
 この年、とても酷い豪雨がこの国を襲いました
 雷は三日空に留まり轟音鳴り止まず、国の一部では水害が起こり集落が半分水の中に沈んで行きました
 過去にこの様な雨の症例がない国は対処に困難を要し、日を迎える度被害は拡大するばかりでした
 精鋭を募る騎士団達の活躍有ってもその被害は治まらない状態でした

 城下よりやや遠く、高台にひっそりとある『彼』の家は王都が一望出来る場所にありました
 『彼』が帰宅すると灯る家の明かりが最近は『彼』の帰宅より先に灯る様になりました
 明かりを入れたのは『子供』でした
 『子供』は成長し身体も大きくなり『彼』の勤めを夕飯を作って待って居りました
 『子供』と言うにはもうだいぶ大きいかも知れません
 凛とした美しい顔立ちによく似合う銀の髪を綺麗に頭に結わえ、いつ元服してもおかしく無い程です

 しかしこの豪雨の所為で『彼』の勤めはいつもより遅く、夜は更けて行くばかりです
 『子供』は冷めては行けない物を鍋の中に置いたたまま
 窓辺に座り『彼』が引く馬の足音を雨音から探します
 暗い暗い外を眺めて居た子供の目に不思議な光景が現れました
 この酷い雨の中、遠くに『女性』が立って居りました
 月の光りさえ届かない漆黒の闇
 見える筈は無いその闇の中に白い衣を着た『女性』が見えたのです
 その『女性』は城の方向を向いたまま立ち尽くしています
 外はバケツを返した様な大雨、『子供』は慌ててコートを羽織り傘を握り外に飛び出しました
 しかし外に飛び出してみると『女性』の姿は無く、広がるのは真っ暗な闇だけでした

 雨音から馬の嗎がひとつ
 それは『彼』の跨がる馬の一声
 『子供』は嬉しさにコートを脱ぎ捨て夕飯の鍋を開けます
 そのちいさな出来事はきっともう『彼』の帰りの嬉しさに消えてしまった事でしょう

 雨は小雨に変わって居りました



レポート:5

 日々触れている『子供』の身体だと言うのに鎧を着付ける『彼』の手が情けなく震えていました
 中々締められない帯
 それを見た彼の仲間達の笑い声が城内に響きました
 時は経ち、この日、王国騎士団の一人として初めて『子供』が王に謁見します
 共に王国騎士と成れた喜びの日
 『彼』は長く伸ばした『子供』の髪を綺麗に結わえ、兜を被せました
 仲間達の歓声がまた響きます
 なんて凛とした姿でしょうか長く二人を観ていた『私』も嬉しくなりました

 眩しい光が差込む朝
 早朝を告げる鐘が王都に鳴り響き、白く羽を広げた鳩達が一斉に城下に飛び立ちました
 王の間に揃う王国騎士団に新しい騎士が入ると城内が沸き上がる中
 『彼』の一声に騎士は美しい鎧を揃え列を成し剣を胸に掲げます
 そしてもう一声で王に寄るその新しい騎士の姿は気高く
 目を引く程の美しきその身なりに婦人達が頬をあかく染めました

 『子供』は『彼』の元、義を重んじ賢人に育っていました
 それは王国騎士団の目上達も負かす程の武芸を供え、強く勇ましく成長して居ました
 騎士としての『子供』は常に『彼』の側にあり、参謀として任務を確実にこなし
 二人の呼吸は常に等しく、支える仲間もまた二人の呼吸と共に有りました
 それは理想の秩序の姿だったと言えたでしょう

 そしてまた年を重ね、この国の平穏は更に続きます
 平穏は誰が見ても平穏であり、『彼』と『子供』二人の生活も良き日常
 長く二人が添うのを観る『私』の目にもただ幸せであったと言って良い姿でした
 このまま何事も無くこの平穏が続いたならば…

 変わらぬ賢人の王、変わらぬ国と秩序、変わらぬ平穏、変わらぬ人々の生活に
 事は起こってしまったのです



レポート:6

 乱そうとして、正そうとして、改革を求め混乱する
 そういった革命、時代の変化を『私』は幾つも観て来ました
 例えば宣教師の暴走とマインドコントロール、凶悪な力を持った物の暴走等
 独裁の敗退と新しい指導者の導き
 歴史に存在する革命、改革は光もあればまた闇も有ります

 国がざわついたこの日沢山の血が流れました
 革命や暴動等は人々の想いから募る戦争、しかしこの日流れた血は
 決して流れてはいけない血だったと『私』は思いました

 王都にある巨大な教会
 白く美しく彫られた聖母の像さえも赤い血の涙を流して居りました

 その聖母の前で『彼』の無惨な身体が鈍い音を立てて倒れました

 側には王国騎士の仲間達が自害を成した無数の遺体
 床は深紅に染まり、黒く黒く深く恐ろしい闇がこの日降りました

 国をも飲み込む漆黒の闇 灼熱の業火

 この出来事が起こった数日前の事です
 王は機密に『彼』を呼び、そして『彼』の表情を伺いながらある話を持ちかけました
 その話とはあっておかしくは無い話 そう縁談でした

 王には国でも絶賛される程美しい娘が居りました
 気品ある王女、それは賢く百合の花の様に美しい娘でした
 
 その王女でしたが隣国の王子や貴族豪族の息子等々沢山の縁談の持ちかけにも
 断固として応じて居りませんでした
 王女には想い人が有り、その者との縁談をいつしかと待って居たのです
 『彼』が王に呼ばれたのは若葉が芽吹く月の昼下がりでした
 王国騎士団長であり国に慕われる『彼』は強く逞しく信頼ある存在
 王としても娘を預けるに相応しい男と思っていたのでしょう
 王女が想う只一人の男は『彼』でした

 ところが城の天守で行われたこの縁談は沢山の糸が絡まる結果になってしまったのです

 淡いステンドグラス越の光の中、淡々と王は『彼』にその旨を語ります
 「決めてくれるか?」
 王のその言葉に『彼』は一呼吸も置かず頭を下げ答えました
 「私は■■(『子供』)を想う事で精一杯です…■■を独りにする事は出来ません…」
 王は目を瞑り小さく溜め息を漏らしました
 その溜め息は一体何が混じっていたのでしょうか
 その顔から伺える心理は「やはり」と言った感じにだった様に『私』は見えました
 『彼』は頭を下げたまま言葉を漏らしました
 「…平民出の卑しい身の私、どうか王女には良き身の上の縁談を私は望んでいます…」
 そう言って『彼』は顔を上げ、敬礼を一つ部屋を出て任務に戻って行きました



レポート:7

 それは誰もが分かっていた事でした
 仲間達ですら『子供』を思って『彼』の縁談には密かに反対していた事でした
 王ですら結果は分かっていた程『彼』にとって『子供』は大切な存在でした
 それは王女も分かっていた筈です

 そう…分かっていた筈なのです

 夜を告げる鐘が鳴り響き、城の門が固く閉じた時間
 遠くガラス製の物が無数砕かれる様な音が『私』の耳に入りましたが
 心躍る人々の耳にはきっと入らなかった事でしょう

 王国騎士団達が家路に立たず綺麗な包みの袋や箱を持って教会に集まりました
 足取り軽く鼻歌を歌い、そしてそれぞれが酒や食べ物を持ち合って居ます
 自慢の料理を広げ、大きな酒樽を開けグラスに並々と葡萄酒は注がれました
 騎士達の家族、親族を軽く交えお祝いの会合が始まりました
 陽気な騎士達が音楽を奏で、娘子供達が踊り、華やかに盛り上がって行きます
 教会を通り過ぎる民も音楽につられ集まって来ました

 年も生まれも分からない『子供』に『彼』は家に招いた日をお祝いの日として
 毎年仲間達とこの様なパーティーを開いて居りました
 そう今日はそのお祝いの日です
 大きく焼いたケーキにナイフが入り、沢山の料理と飲み物が配られます
 夜が更けると共に賑やかになって行く宴は
 貴族から貧しい者迄も集まり更に賑やかになって行きます
 『私』も毎年この日を楽しみにして居りました
 教会はこの日天使さえも寝付けなかったでしょう

 そして宴が終わり各々が家路を歩きます
 笑顔、鼻歌、陽気な足音が月明かりの夜に響きました

 『子供』の腕には沢山のお祝いの品や花がありました
 高台にある家は狭く、お祝いの品が机の上から溢れる程でした
 『子供』が一つ一つ嬉しそうに箱を開けて居ると
 『彼』は棚から小さな箱を出して『子供』に今年のお祝いを贈りました
 その箱には小さな銀の指輪が入って居りました
 昔から彼が付けている指輪と同じ物でした
 職人に特注したものの様です
 妙にそれを欲しがっていた『子供』は頂いた数々の物よりも一番嬉しい物を頂いたと
 直ぐにその指輪を着けて『彼』に見せました

 二人の笑顔、そして今夜も二人で床に入り眠りに着きます
 青年に成長した『子供』の身体は大きかったのですが部屋は狭く
 もう一つ床を買い入れる余地は無く
 相変わらず『彼』は『子供』を腕に抱え眠ります
 疲れた身体を寄り添い静かな眠り

 思えば二人の絆は誰もが分かっていた事だったからこそ平穏は続いていたのかも知れません



レポート:8

 朝、腕に温かいカタチが無い事に気付き『彼』は目を覚まします
 先に起きたのだろうかと家の中を見回すも『子供』の姿は何処にもありません
 名前を呼ぶも返事は無く、朝食を済ましたり出かけた形跡もありません
 『彼』が次にぞっとしたのは内側からしか掛ける事が出来ない戸の鍵が掛かったままなのです
 窓も同じく開けた形跡はありません
 異変に気付いた『彼』は慌てて外へ飛び出しました

 馬を駆け家の近辺から城下を、王国騎士団の任務すら放棄して『彼』は思い当たる全ての場所を
 地から昇った日が地へ落ちる迄 何も飲まず何も食わず『子供』を探し続けました
 頼れる騎士達の姿も何故かありません
 城中の者に声がかれる迄『子供』の居場所を聞き走ります
 何度も自宅に戻り『子供』の姿が戻っていないか往復を繰り返し
 馬が走れなくなるまで、自分の足に感覚が無くなる迄
 誰に尋ねても『子供』の居場所が掴めないまま『彼』は昨日宴があった教会の戸を
 くたくたの身体で開けました
 神にもすがりたい程の想いだったのかも知れません

 『彼』が聖母に祈りを捧げた時でした
 後ろから鎧の擦れる音がして『彼』は振り返りました
 それは王国騎士団の仲間達の姿でした
 『彼』は藁にもすがりたい気持ちで『子供』の事を信頼する仲間達に尋ねようとしました
 しかし、仲間達はその腰に帯びた剣を『彼』に向けます
 一人が震える唇で一言漏らしました
 「旦那…家族を…捕られました…」



レポート:9
 
 王国騎士団の4隊長達、『彼』には己の命を捧げた名誉たる4人が側に居ました
 彼が騎士団を率いる事になった年から『彼』に忠誠を誓って命を預けた強者共です
 その4人が剣を胸に構え今『彼』に剣を抜きました
 『彼』は唇を噛み締め胸に十字を切りました
 王国騎士団の4隊長の剣が叫びと共に『彼』を貫き
 そしてその剣は『彼』の身体から抜かれると
 躊躇無く己が首へ滑る様に突き刺し4隊長及び騎士20人が一斉に自害を成しました
 その騎士達の姿は意識の消えて行く『彼』の目にも無惨に映った事でしょう
 『彼』は絶える息の中『子供』の名前を叫び、4人の騎士を抱きしめ倒れて行きました
 純白の教会の床が赤く染まって行くのを『私』は何も出来ないままただ観ていました
 何も出来ないまま ただ ただ観ていました
 血が酸化し黒くなっていく迄

 そして西に沈む日が教会を真っ赤染めた時間
 静かな足音が響きました
 足音に目を向けるとそこにはあの豪雨の中立ち尽くしていた『女性』が居りました
 『女性』は無惨な死体の山を虚ろな顔で眺めて居ます
 暫くして教会の外から馬の嘶きと共に王と王女が現れました
 そして王が合図を送ると兵が一人『女性』へ柩をひとつ置いて下がります
 『女性』は王に頭を下げ柩の中を確認し、ちいさく笑うとそれと共に消えて行きました
 そして間もなく王、王女と去り、教会の戸は固く固く閉められ
 火が放たれました

 その炎は漆黒に燃え上がり
 天を黒く染めました

 『私』は今でもあの柩の中を忘れません
 美しく横たわる銀の髪 あれは『■■』



レポート:10

 業火は消える事無く十日燃え盛り
 全てを飲み込む勢いで城下を灰と化して行きます
 誰も予想しなかった出来事が起こってしまいました
 水さえも受け付けないその炎は国を焼き大地を生き物が消える迄焼き尽くしました
 美しかった国を、平和に暮らしていた人々を、生き物を飲み込んで行きます

 観る事の許された『私』は燃えさかる教会の中に居りました
 『彼』の遺体は焼ける事無く、腐る事無く、4人を抱き倒れたままです

 そこには『何か』が居ました
 禍々しいそれは黒く混沌のかたまりの様なモノです
 その塊は時間が経つ程に大きくなり『彼』の遺体に添い何度も話しかけるのです
 絶えた筈の『彼』がゆっくりと目を開け一言『何か』に呟きました
 「■■は元気ですか」
 その言葉と共に『彼』が抱きかかえていた4人の遺体がヒトの形を失い
 ひとつは6つの頭を持つ竜へ
 ひとつは巨大な触手をうねらせ
 ひとつはおぞましいかたちの蛇へ
 ひとつは魔力を持った躯と成りました
 何かを対価とし何かを受入れ契約を結んでしまったのでしょうか
 既に勇ましかった人の形すら無い醜い魔物の姿です

 そして全て焼き尽くした炎が消えた大地に現れたのは観た事も無い神々の世界でした
 無数の異系の軍勢が群れを成す、そこに『彼』もまた鬼の様な姿で立ち上がりました
 そして何かを待っている様に空を見上げます
 空は青さえ伺う事の出来ない分厚い雲に覆われて居りました
 ところが眩い一閃の光が地を目掛けて差しました
 そこには銀の髪に眩く光を帯びて…



 (レポートはここで無惨に破れている)

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